湿気とだるさとツボと漢方薬の話
- 2016/06/07
- 22:34
スタッフ藤井です。
関東地方も梅雨入りました。
うっとうしい雨が続き身体がだるくなりがちですが、東洋医学ではこのだるさは湿気と関係あると考えます。
大気中の過剰な湿気は身体に悪影響を及ぼすと考えます。
これを中医学では湿邪(しつじゃ)といい、健康を害する6つの病邪=六邪の一つです。
六邪とは気候の異常変動が身体に及ぼす病理刺激のことで、六淫(りくいん)とも呼ばれます。
寒邪、燥邪、湿邪、暑邪、火邪、風邪の6つの病邪です。
中医学では致病性因子を「邪」(じゃ)「邪気」、「病邪」などといいます。そしてそれに対抗するための身体に備わる防衛力を「正」「正気」(せいき)といいます。
たとえば寒邪は過剰な寒冷刺激や季節外の寒さによって身体が冷え、いろいろな病気をおこします。
例えば冬の寒気に当たってしもやけを起こすとか、おなかを壊すとか寒さによる体調不良全般です。
暑邪は夏の暑さによる体調不良のことで、熱中症や脱水、のぼせや夏バテなども含まれます。
湿邪は大気中の過剰な湿度が身体に侵入し、だるさ、胃腸の働きの低下、関節痛、それに水虫なども湿邪に含まれます。
湿の本質は水なので、普段から身体の中の水分が多くてむくみがちな人が「湿邪」に当たると体外の湿と体内の水が呼応して体調不良になります。
身体の中の水分が過剰になると「気」の動きが悪くなります。
水分が多い洗濯物が重いように、身体が重く感じます
関節など身体の1部分に湿がたまって気血が停滞すると関節炎や関節痛が起こります。
天気の変化や低気圧で体調不良や関節が痛むって話を聞いたことがあるかもしれませんが、これが湿邪の影響です。
胃腸は湿気の影響を特に強く受けます。
というのは胃腸は食べ物からエネルギーを作り出す発電所のような器官なので、湿気が多いと食べ物をエネルギーに変換しにくくなり、余分なパワーが必要です。湿気が多いと物が燃えにくいわけです。
その結果、エネルギーが作りにくい、つまり気や血などの栄養物質が作りにくい、元気が出にくい、だるい、ねむい、朝起きられない、、、、、いろいろな不調が出ます。
胃腸(脾胃)の記事:
東洋医学の「脾」とは?(1)脾の働き編(2016年7月20日)
というわけでこの時期にだるいというのは湿邪の影響です。
また、水虫は湿邪の一種と考えます。
顕微鏡がない時代の昔の人々は水虫が細菌(真菌)によって発症するなんて知りませんでした。
ジメジメした環境が好きな真菌が、通気性の悪い足の指間などに巣くう水虫はまさに湿邪による病気と考えました。
お風呂場に発生するカビも湿邪の一種であるといえます。
鍼灸では湿邪対策に水を追い出す力のあるツボを使います。
豊隆(ほうりゅう)、関元(かんげん)、涌泉(ゆうせん)などがよく使われます。
涌泉:足の裏にあるツボ。
腎の経絡の出発点。
このツボは身体の水分調整の要である「腎」(じん)の働きを活発にして利尿を促進し余分な水分を排出します。特に足のむくみ・だるさにはとてもよく使うツボです。足底なので鍼は刺ささずにお灸を使うことが多いです。
こういう場合の湿気とだるさによく使われる漢方薬は、、、
茵陳五苓散(いんちんごれいさん)
補気建中湯(ほきけんちゅうとう)
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)
清暑益気湯(せいしょえっきとう)
などを使うことが多いです。
【茵陳五苓散】いんちんごれいさん
もともと水分が多くむくみがちな人で、湿邪に当たり体調が悪くなった場合、余分な水分を尿として強力に排出して体調を整えます。利尿作用が強いので一般的なむくみに広く使えますが、特にむくんでいるのにのどが渇く、しかも尿の出がそれほど良くない場合は最適です。
湿熱を冷ます方剤なので冷えのある場合は使いません。お酒の熱と湿による不快な症状解消のために二日酔いに応用するケースもあります。
【補気建中湯】ほきけんちゅうとう
脾胃(消化器系)がとても弱く、食べるとすぐ下してしまうような脾虚体質の人が湿邪の影響でだるさ、むくみ、食欲不振などが生じた場合に使います。
補気と利水のバランスが絶妙なので胃腸が弱い人でも無理なく優しく水をさばいてくれるのが特徴で、そのため癌の患者で発生する腹水や胸水などの症状にも使える優秀な処方です。
【香砂六君子湯】こうしゃりっくんしとう
この薬は湿邪の影響で脾胃が停滞して食欲不振、悪心嘔吐など消化管に影響が強く出ている場合。
上記の補気建中湯よりも胃腸を活性化して内湿・痰飲を取り除く力が強いので、脾虚湿盛にばっちり対応する処方です。
ビールの飲みすぎやアイスの食べ過ぎなどで胃腸が冷えて弱っている場合にはとてもよく聞きます。
【清暑益気湯】せいしょえっきとう
夏バテ、熱中症の後に体調を回復させるのに使います。
清暑益気湯は実はいくつかの種類がありますが、日本で作られている清暑益気湯は≪医学六法≫が出典で補気健脾+養陰生津の作用に重点が置かれて清熱の力はありません。そのため熱中症直後ののぼせ、内熱が残っている場合よりもすこし時間がたって、熱が取れてからの体力回復のほうが合ってます。
このほかにもいろいろな夏バテや湿気対策、熱中症の漢方薬がありますが、その人の体調と湿気の状態などを細かく分析して適切な薬を選択します。
熱中症対策に「水飲め、水飲め、塩取れ、塩取れ!」ってテレビラジオなどでたくさん喧伝します。
熱中症は命にかかわるので熱中症になりそうな大汗をかく場合や暑い環境で過ごす場合は水分も塩分もとても大事です。
しかし、汗もほとんどかいてないのに涼しい環境でジャブジャブ水分を取りすぎて、その人の水の処理能力を超えて湿邪による体調不良を起こす場合もあります。
その人の体質と環境、今現在のからだの水分状況や汗の具合などを見極めて、適切な夏バテ、熱中症対策ができればいいですね。
夏の体調管理に東洋医学の知恵を生かすのも一つの手です。
記事&写真:藤井直樹
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TAG:mejiro tubo acupuncture アジサイ 紫陽花 あじさい 夏バテ 東洋医学 夏の体調管理 漢方薬 中医学 湿気 湿邪
関東地方も梅雨入りました。
うっとうしい雨が続き身体がだるくなりがちですが、東洋医学ではこのだるさは湿気と関係あると考えます。
大気中の過剰な湿気は身体に悪影響を及ぼすと考えます。
これを中医学では湿邪(しつじゃ)といい、健康を害する6つの病邪=六邪の一つです。
六邪とは気候の異常変動が身体に及ぼす病理刺激のことで、六淫(りくいん)とも呼ばれます。
寒邪、燥邪、湿邪、暑邪、火邪、風邪の6つの病邪です。
中医学では致病性因子を「邪」(じゃ)「邪気」、「病邪」などといいます。そしてそれに対抗するための身体に備わる防衛力を「正」「正気」(せいき)といいます。
たとえば寒邪は過剰な寒冷刺激や季節外の寒さによって身体が冷え、いろいろな病気をおこします。
例えば冬の寒気に当たってしもやけを起こすとか、おなかを壊すとか寒さによる体調不良全般です。
暑邪は夏の暑さによる体調不良のことで、熱中症や脱水、のぼせや夏バテなども含まれます。
湿邪は大気中の過剰な湿度が身体に侵入し、だるさ、胃腸の働きの低下、関節痛、それに水虫なども湿邪に含まれます。
湿の本質は水なので、普段から身体の中の水分が多くてむくみがちな人が「湿邪」に当たると体外の湿と体内の水が呼応して体調不良になります。
身体の中の水分が過剰になると「気」の動きが悪くなります。
水分が多い洗濯物が重いように、身体が重く感じます
関節など身体の1部分に湿がたまって気血が停滞すると関節炎や関節痛が起こります。
天気の変化や低気圧で体調不良や関節が痛むって話を聞いたことがあるかもしれませんが、これが湿邪の影響です。
胃腸は湿気の影響を特に強く受けます。
というのは胃腸は食べ物からエネルギーを作り出す発電所のような器官なので、湿気が多いと食べ物をエネルギーに変換しにくくなり、余分なパワーが必要です。湿気が多いと物が燃えにくいわけです。
その結果、エネルギーが作りにくい、つまり気や血などの栄養物質が作りにくい、元気が出にくい、だるい、ねむい、朝起きられない、、、、、いろいろな不調が出ます。
胃腸(脾胃)の記事:
東洋医学の「脾」とは?(1)脾の働き編(2016年7月20日)
というわけでこの時期にだるいというのは湿邪の影響です。
また、水虫は湿邪の一種と考えます。
顕微鏡がない時代の昔の人々は水虫が細菌(真菌)によって発症するなんて知りませんでした。
ジメジメした環境が好きな真菌が、通気性の悪い足の指間などに巣くう水虫はまさに湿邪による病気と考えました。
お風呂場に発生するカビも湿邪の一種であるといえます。
鍼灸では湿邪対策に水を追い出す力のあるツボを使います。
豊隆(ほうりゅう)、関元(かんげん)、涌泉(ゆうせん)などがよく使われます。
涌泉:足の裏にあるツボ。
腎の経絡の出発点。
このツボは身体の水分調整の要である「腎」(じん)の働きを活発にして利尿を促進し余分な水分を排出します。特に足のむくみ・だるさにはとてもよく使うツボです。足底なので鍼は刺ささずにお灸を使うことが多いです。
こういう場合の湿気とだるさによく使われる漢方薬は、、、
茵陳五苓散(いんちんごれいさん)
補気建中湯(ほきけんちゅうとう)
香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)
清暑益気湯(せいしょえっきとう)
などを使うことが多いです。
【茵陳五苓散】いんちんごれいさん
もともと水分が多くむくみがちな人で、湿邪に当たり体調が悪くなった場合、余分な水分を尿として強力に排出して体調を整えます。利尿作用が強いので一般的なむくみに広く使えますが、特にむくんでいるのにのどが渇く、しかも尿の出がそれほど良くない場合は最適です。
湿熱を冷ます方剤なので冷えのある場合は使いません。お酒の熱と湿による不快な症状解消のために二日酔いに応用するケースもあります。
【補気建中湯】ほきけんちゅうとう
脾胃(消化器系)がとても弱く、食べるとすぐ下してしまうような脾虚体質の人が湿邪の影響でだるさ、むくみ、食欲不振などが生じた場合に使います。
補気と利水のバランスが絶妙なので胃腸が弱い人でも無理なく優しく水をさばいてくれるのが特徴で、そのため癌の患者で発生する腹水や胸水などの症状にも使える優秀な処方です。
【香砂六君子湯】こうしゃりっくんしとう
この薬は湿邪の影響で脾胃が停滞して食欲不振、悪心嘔吐など消化管に影響が強く出ている場合。
上記の補気建中湯よりも胃腸を活性化して内湿・痰飲を取り除く力が強いので、脾虚湿盛にばっちり対応する処方です。
ビールの飲みすぎやアイスの食べ過ぎなどで胃腸が冷えて弱っている場合にはとてもよく聞きます。
【清暑益気湯】せいしょえっきとう
夏バテ、熱中症の後に体調を回復させるのに使います。
清暑益気湯は実はいくつかの種類がありますが、日本で作られている清暑益気湯は≪医学六法≫が出典で補気健脾+養陰生津の作用に重点が置かれて清熱の力はありません。そのため熱中症直後ののぼせ、内熱が残っている場合よりもすこし時間がたって、熱が取れてからの体力回復のほうが合ってます。
このほかにもいろいろな夏バテや湿気対策、熱中症の漢方薬がありますが、その人の体調と湿気の状態などを細かく分析して適切な薬を選択します。
熱中症対策に「水飲め、水飲め、塩取れ、塩取れ!」ってテレビラジオなどでたくさん喧伝します。
熱中症は命にかかわるので熱中症になりそうな大汗をかく場合や暑い環境で過ごす場合は水分も塩分もとても大事です。
しかし、汗もほとんどかいてないのに涼しい環境でジャブジャブ水分を取りすぎて、その人の水の処理能力を超えて湿邪による体調不良を起こす場合もあります。
その人の体質と環境、今現在のからだの水分状況や汗の具合などを見極めて、適切な夏バテ、熱中症対策ができればいいですね。
夏の体調管理に東洋医学の知恵を生かすのも一つの手です。
記事&写真:藤井直樹
目白鍼灸院について

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