琵琶の撥と 鍼の鍼管
- 2018/02/24
- 01:56
鍼灸あん摩マッサージ指圧師は、盲人の職業というイメージをお持ちの方も多くいらっしゃると思います。

日本における盲人の職業としては、古くは盲僧や祈祷師などがあり、江戸時代には浄瑠璃、琴、三味線などの芸能分野でも活躍しました。(鍼灸あん摩が盲人の職業として定着したのも江戸元禄期です。)
江戸時代より前、13~14世紀、鎌倉時代には、琵琶を用い平家一門の栄華と滅亡を題材とした平家物語を語る琵琶法師が登場しました。
物語の語りいっても、琵琶法師のそれは現代の朗読やパフォーマンスのような一般的な意味での「語り」とは異なり、特定の視点を持たない物語の世界と聴衆とのはざまにある媒介者として独特の役割を果たしていたと琵琶法師の研究者である兵藤裕己は『琵琶法師』の中で述べています。
物語を語る一人の人格として存在するのではなく、あたかも人物が憑依したように語ったかと思うと、いつの間にか語り手の立場になり、また同じような連続性を持って別の声として語る…人と人、自分と周囲、この世界とあの世界等々、異界を語る存在として、自己の境界が視界を介さないことによって曖昧となり、シャーマニックな際立つ存在として琵琶法師は位置していたようです。

琵琶という楽器や、琵琶法師には、江戸以降現在まで盲人の職業という側面を持つ日本鍼灸にも深いつながりを感じました。
鍼灸は経絡という目に見えないものを扱う技術であり、しかも施術者と患者、自然と人間との境界を曖昧にしながら行う医療だからです。

鍼灸医学は古代中国を起源とし、琵琶が伝来するより前に日本に伝来しました(6世紀頃)。
それから1000年を超える月日を経た日本鍼灸は、当然中国のそれとは異なった特徴を持つことになります。
(乱暴なまとめ方をすると)、中国鍼灸は「理論」を中心にし患者の身体に触れるという行為は比較的少ないのに対し、日本鍼灸は、理論よりもむしろ「触れて感じる」ことに重きをおいています。
触れて感じる日本鍼灸の特徴は、日本の風土と歴史が生み出したものですが、盲人の職業として発展してきたという日本独自の事情も深く関係していると思います。

セイリンのサイトより
触れる技術よりも世界的に有名な日本鍼灸の特徴が、管鍼法と呼ばれる技です。
江戸時代徳川綱吉の庇護を受け盲人への鍼・あん摩の教育を施し盲人の職業として定着させた鍼師杉山和一(1610~1694)が大成させました。
管鍼法とは、鍼を細い管に入れ、盲人が使いやすいように管で鍼をリードさせ、指で鍼の頭を叩いてツボに入れる刺入法で、細い鍼を痛みなく確実にツボに入れる方法として、日本だけでなく色々な国で採用されている技術です。

前回ご紹介した薩摩琵琶奏者の後藤幸浩さんは、
「江戸時代成立の薩摩琵琶は、左手をほぼ動かさず、弦を締め込んで音の高低を造りますが、これは眼を閉じていた方が集中出来たりします。撥はなんとなく、盲人の方々の杖的なニュアンスもあるのか思っています。この辺りにも盲人の方々の工夫が活きている気がします。」
とおっしゃっていました。
やはり中国大陸から伝来した琵琶ですが、中国琵琶は撥は使わず爪でかき鳴らすのです。
日本鍼灸の鍼管、日本琵琶の撥、このあたりにも共通するものを感じます。
視覚障害の有無に関わらず、私を含む現代日本の鍼灸師は、患者に直接触れることにより目に見えない力を感じ取って鍼灸術を行ってきた日本鍼灸歴史の延長線上で日々治療を行っているのだと実感します。
※日本における視覚障害者を表す用語としては現在「視覚障害者」という言葉が一般的ですが、ここでは戦後~現在まで一般に使われてる盲人という言葉を用いました。

日本における盲人の職業としては、古くは盲僧や祈祷師などがあり、江戸時代には浄瑠璃、琴、三味線などの芸能分野でも活躍しました。(鍼灸あん摩が盲人の職業として定着したのも江戸元禄期です。)
江戸時代より前、13~14世紀、鎌倉時代には、琵琶を用い平家一門の栄華と滅亡を題材とした平家物語を語る琵琶法師が登場しました。
物語の語りいっても、琵琶法師のそれは現代の朗読やパフォーマンスのような一般的な意味での「語り」とは異なり、特定の視点を持たない物語の世界と聴衆とのはざまにある媒介者として独特の役割を果たしていたと琵琶法師の研究者である兵藤裕己は『琵琶法師』の中で述べています。
物語を語る一人の人格として存在するのではなく、あたかも人物が憑依したように語ったかと思うと、いつの間にか語り手の立場になり、また同じような連続性を持って別の声として語る…人と人、自分と周囲、この世界とあの世界等々、異界を語る存在として、自己の境界が視界を介さないことによって曖昧となり、シャーマニックな際立つ存在として琵琶法師は位置していたようです。

琵琶という楽器や、琵琶法師には、江戸以降現在まで盲人の職業という側面を持つ日本鍼灸にも深いつながりを感じました。
鍼灸は経絡という目に見えないものを扱う技術であり、しかも施術者と患者、自然と人間との境界を曖昧にしながら行う医療だからです。

鍼灸医学は古代中国を起源とし、琵琶が伝来するより前に日本に伝来しました(6世紀頃)。
それから1000年を超える月日を経た日本鍼灸は、当然中国のそれとは異なった特徴を持つことになります。
(乱暴なまとめ方をすると)、中国鍼灸は「理論」を中心にし患者の身体に触れるという行為は比較的少ないのに対し、日本鍼灸は、理論よりもむしろ「触れて感じる」ことに重きをおいています。
触れて感じる日本鍼灸の特徴は、日本の風土と歴史が生み出したものですが、盲人の職業として発展してきたという日本独自の事情も深く関係していると思います。

触れる技術よりも世界的に有名な日本鍼灸の特徴が、管鍼法と呼ばれる技です。
江戸時代徳川綱吉の庇護を受け盲人への鍼・あん摩の教育を施し盲人の職業として定着させた鍼師杉山和一(1610~1694)が大成させました。
管鍼法とは、鍼を細い管に入れ、盲人が使いやすいように管で鍼をリードさせ、指で鍼の頭を叩いてツボに入れる刺入法で、細い鍼を痛みなく確実にツボに入れる方法として、日本だけでなく色々な国で採用されている技術です。

前回ご紹介した薩摩琵琶奏者の後藤幸浩さんは、
「江戸時代成立の薩摩琵琶は、左手をほぼ動かさず、弦を締め込んで音の高低を造りますが、これは眼を閉じていた方が集中出来たりします。撥はなんとなく、盲人の方々の杖的なニュアンスもあるのか思っています。この辺りにも盲人の方々の工夫が活きている気がします。」
とおっしゃっていました。
やはり中国大陸から伝来した琵琶ですが、中国琵琶は撥は使わず爪でかき鳴らすのです。
日本鍼灸の鍼管、日本琵琶の撥、このあたりにも共通するものを感じます。
視覚障害の有無に関わらず、私を含む現代日本の鍼灸師は、患者に直接触れることにより目に見えない力を感じ取って鍼灸術を行ってきた日本鍼灸歴史の延長線上で日々治療を行っているのだと実感します。
※日本における視覚障害者を表す用語としては現在「視覚障害者」という言葉が一般的ですが、ここでは戦後~現在まで一般に使われてる盲人という言葉を用いました。
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